海外で日本人同士の人間関係を上手く乗り切るには?-場の倫理と個の倫理

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海外に住んでいる日本人の中には、同じ海外在住の日本人同士の人間関係に悩む人も少なくありません。その息苦しさの根底を探ってみたいと思います。

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海外在住日本人の中には、他の日本人在住者とは距離を置こうと考えている方も数多くいます。滞在都市によっては、日本人が多く、日本食、日本のカラオケ、日本のテレビ、日本の新聞といった日本文化に囲まれて生活することが可能な反面、日本人社会が狭いため、息苦しさを感じてのことと推測しています。

実は私が住んでいるミシガン州でも規模こそ違えど似たような状況にあり、多くの日本人留学生や駐在員のご家族が他の日本人との距離感に悩んでいることを見聞きします。留学当時の私の得意の断り文句は、「子供が熱を出したから(私には子供がいません)」というものでしたが、その息苦しさの根底を探ってみたいと思います。

事例1:日本人なら日本人らしく?

私が初めて日本人の留学生との関係に苦慮した経験は、1996年、イギリスでの英語研修でのことでした。私の日本の大学での語学研修の一環だったのですが、クラス分けテストが終わると日本人は私一人しかいないレベルのクラスに振り分けられました。

周りはヨーロピアンばかり。当時は20代初めでしたから、異性に大変興味があり、私はクラスメートのヨーロピアンの女の子とコミュニケーションを取るべく、文字通り、必死で英語を勉強し始めました。努力の甲斐もあり(?)、スペインやチェコからのクラスメートとキャンパスで一緒に肩を並べて歩けるまで、相手との間合いを詰めたのですが、ここである現象に気づきました。

私の大学からの日本人留学生で日本人と群れてばかりいる集団が、私のことをじっと遠くから見ているのです。これは私だけが気づいたのではなく、当時、 仲の良かったヨーロピアンの学生たちも同じ感想を言っていましたから、私の思い違いではないでしょう。

滑稽なことに、私が校舎の出口から女生徒と肩を並べて出ると、タバコを吸っていた日本人集団が会話を止め、じっと私達を凝視。私達二人が歩いてカフェテリアの校舎に入るまで、監視カメラが追尾してくるがごとく一様に首を左から右に回転させて見つめてくる光景は異様でもありました。

そして、ついに私への不満が頂点に達したのか、私は同じ大学から来ていたひとりに、「日本人だったら、『日本人』らしくしろ!」とトイレで糾弾されました。しかし、日本人らしくといわれても、何を持って「日本人」というのか、意味が分かりません。

日本語を喋っていれば日本人なのか、 それなら小錦は日本人なのか、デーブ・スペクターはどうなんだ。日本国籍を持っていたら、肌の色が黄色くなくても日本人なのか。だいたい英語研修で日本語だけを話して過ごそうとする己の姿勢に疑問を抱かないのか。日本にこだわるなら、なぜ留学をした。

私が詰問を始めると相手は声が小さくなり始め、「結局、お前はなんでイギリスに英語研修しに来たんだ!」というトドメの一撃に、相手は号泣とともにトイレを飛び出して行きました。

事例2:抜け出せない日本人ネットワーク

30歳前後のころ、私の周囲では会社を辞めて留学を考えたり、実際に留学をした友人や同級生からの相談が相次いでいました。その中に、東欧のある国に一切の準備をせず留学した女性がいたのですが、彼女は渡航後、延々と私に電話で他の日本人との狭い人間関係を吐露します。

曰く、「これからシャワーにはいる」といった些細なことでもチャットでお互いやりとりし、そこから外れることを許さない雰囲気。◯◯ちゃんと△△ちゃんが一緒に遊んでいたと後で聞くと、誘ってもらえなかったことに嫉妬。かといって日本人との狭い人間関係に距離を置きたいながらも、それ以外に友人知人がおらず、現地の友人を広げようにも言葉はできず・・・

当時の私はすでに大学院留学を終え、こういった日本人同士の狭い人間関係に一種の摩擦や軋轢が多く起こることを熟知しておりました。彼女の話もべつに目新しいことではなく、留学や海外在住初心者、ならびに現地語の習得が未熟、もしくは習得する気がない人に共通して起こる悩みごとです。

日本人間の摩擦や軋轢の原因:場の倫理と個の倫理

それでは、なぜ、こういった摩擦や軋轢は起こるのか。
多くの日本人留学生はこういった軋轢や摩擦を肌で感じることはありますが、理由や背景を述べることはできないかもしれません。文化を語るには、社会学や文化人類学の知識が必要ですから、多くの方は薄ぼんやりと感じながら、その状況を享受していくしかない状況に置かれてしまいます。それがストレスになり、海外生活が嫌いになってしまう方もいらっしゃいます。

以前の記事『海外在住者が感じる「モヤモヤ」の正体とは?留学生は劣等コンプレックスを抱えやすい宿命』 でも引用させてもらいましたが、臨床心理学者の河合隼雄氏が『働きざかりの心理学』というエッセイ集で、「場」の倫理「個」の倫理というキーワードを使い、分かりやすく解説していますので、再登場を願いましょう。

河合隼雄氏によると、場の倫理とは、与えられた「場」の平衡状態の維持に最も価値を置く倫理をいいます。河合氏はパーティーに招待された際、飲み物を尋ねられ、「何でもいいです」といってしまう心理的背景に、目立たないこと、何か特異なことをいって、場の平衡を乱さないように気を使っている自分に気づくと述べています。

私自身の経験でも、日本の大学院生がアメリカのレストランで、ウェイトレスから”Would you like something to drink?”と英語で聞かれ、「何か飲まれますか?」と私に何度も尋ねてきたことに対して、私が大変苛立ったことがございます。

彼としては、皆が何か飲むなら同じものとをという心理が自然と働き、別に悪気なく、その場にいた最年長の私に何を飲むのか尋ねてきたのでしょう。しかし、アメリカナイズされた私の感覚では「おまえの飲みたいドリンクなんかオレが知るか。ウェイトレスはお前に聞いているのに、なんでオレに聞いてくんねん(苛)」という怒りに転化されたのだと自分では分析しています。

このように場の平衡感覚を維持しようとする私達に対し、アメリカ人は「個の倫理」で自分の欲しいものをウェイトレスに要求するので、自分がウェイトレスから尋ねられたのに、私に聞いてくることはまずないでしょう。

事例1では日本の大学からの英語研修での私の体験を挙げましたが、同じ「場」出身にもかかわらず、なんとか日本語で日本人だけの平衡感覚を維持しようとする集団から外れて、狂ったように英語を勉強しヨーロピアンのピチピチギャルとデートしていた当時の私は、確かに場の平衡感覚を乱す、逆賊・非国民にして反逆者でした。

事実、ヨーロピアンの連中とパブに昨晩行ったことを日本人の同級生にうっかり漏らしたところ、「ズルい!」と非難されたことは、場の平衡感覚において、ひとりだけの抜け駆けは許されない、という心理に反映された言葉といえるのではないでしょうか。

また、場の平衡を乱した者には、罰則が与えられると私は考えています。場からの排除、村八分、会社での窓際部署、学校でのいじめ。これらは日本社会の場の倫理における最終制裁ではないでしょうか。

河合氏は、場の倫理においては、周囲の空気を「察する」ことによって場への忠誠心を受動的に示すことが大切と説いてます。では察しない場合、どうなるか。場からの黙殺が待っています。事実、私はイギリスからの帰国便で同じ大学からの日本人同朋諸君から完全に無視されたのでした。

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「場」を重んじる日本人

日本社会の場での人間関係を解き明かした文化人類学者に、中根千枝氏が挙げられます。彼女は、著書「タテ社会の人間関係」の中で、社会構成の要因を大きく分ける原理に、「資格」と「」があると説いています。

「資格」は、社会個人の属性つまり、家柄、学歴、地位、職業、老若男女といった生得的な要素も含まれます。対して、「場」は一定の地域や所属機関を指し、会社もその中に含まれます。そして中根氏は日本社会が「場」を重んじる社会であること、ならびに官僚組織のような序列の「タテ」社会の組織であることを指摘しています。

彼女はイギリス滞在時に、現地のイギリス人教授がある日本人大学教授と、出張先のアメリカ学会で出会ったと聞きました。そのイギリス人教授は、同じ民俗学ということで、「Ms.Nakaneをご存知ですか」と日本人教授に声をかけると、よく知っていると返答。その後、間を置いて「彼女は私の後輩なんです!」と得意気に喧伝されたことに、このイギリス人教授は日本のStatus Societyを指摘し、爆笑していたという自身の体験談を語っています。

盛り上がらない日本人パーティ

私も似たような序列を意識したことがあり、入社まもなく、サウスカロライナ州で研修を受けていた時のことが思い出されます。非常に小さな町でしたので、日本人は数えるほどしか住んでおらず(全員、駐在)、どういうわけか、私が赴いた時にすでに、日本人連絡網というものが自主的に出来ておりました。

当時の私は、 すでに大学院を終え、アメリカで生活していくだけの知識と英語力を備えていたので、面倒な邦人同士の人間関係を回避する意味でも、連絡網に自分の連絡先を登録することは気が引けたのですが、会社にわざわざ電話をかけられて催促された上、私の日本人上司からもいわれたので、登録いたしました。

登録すると案の定、週末ゴルフの誘いです。当時の私は20代のペイペイでしたから、うかつに参加すると週末もずっと頭を下げていなければいけないことは明白でした。「ゴルフクラブを買うだけのカネがない」と言い訳をしながら逃げまくっていると、今度は日本人だけで家族を含めての夕食会となりました。これでは逃げようがありません。

恐る恐る参加してみると、駐在家族含めて総勢10数名、中華料理店に勢揃しておりましたが、会話は一切盛り上がりません。それもそのはず、会話の頭に、「どこの会社にお勤めですか?」という枕詞があり、狭い取引関係ゆえに、顧客、取引先といった序列関係が見えてしまうのです。

ましてや、自分の会社の同僚、上司が同席しているわけですから、上司を差し置いて会話を進めるわけにも行かず、会話はギクシャクとしたままで、 結局、そのまま夕食会はお開きとなり、二度と開かれませんでした。

これも日本社会の場における犠牲例といっていいかもしれません。

解決の糸口は「場」と「個」

現在の私は会社以外のプライベートでは、日本人との人間関係に悩まされることはありません。なぜなら、友人はアメリカ人の方が多く、また日本人でも親しくさせていただいている方たちは、皆アメリカ生活が長くアメリカ社会に適応した生活をなさっているからです。

留学生活や海外生活の困難な問題のひとつに、現地での生活の人間関係にあります。人間関係ゆえに決定的な対処方法がなく、状況は千差万別ということもあり、これといった解決方法は提示できません。しかし、場と個というキーワードで考えると解決の糸口は見えてくるかもしれません。これらのキーワードが、海外生活のより風通しの良い人間関係の構築に繋がることをお祈りいたしております。

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命かげろう
命かげろう

初めまして!日本の大学を卒業した後、米国の大学院に留学し漂流し続けること10数年。今年で米国生活16年目になります。お笑い好きの40男が加齢臭を漂わしながら、ミシガン州デトロイト近郊から海外生活と留学の知恵や経験をお届けします。