学位を取りたかったら母国で語学力を身につけてから留学するべき
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私は留学時代、親しい友人たちに定期的にメールを送って、近況報告をしていました。日本にいる友人が私の留学に興味を持っていたことと、私自身、文章を書くという行為に、自分を客観的に見つめなおすという効能があることを見出したからに他なりません。今回は過去のメールを基に、15年前の友人たちとの会話を想起したいと思います。
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※登場人物は全て仮名です。
スーパーからの帰り道、運転する私の助手席に座っていた吾妻さんが口を開く。
- 吾妻
鈴木とはこのセメスターで大学院に「仮」入学した日本人留学生だ。私も何回か立ち話をした経験があり、そのとぼけた個性と、礼儀正しいけれど何をいっているのか分からない日本語が印象的だった。
私が記憶している限りでは、確か彼はGMAT(大学院入学テスト)の基準点を満たしておらず、12月までに基準点を満たすよう大学院から催促されているはずだ。吾妻さんの話もそのGMATについてだった。
このセメスターが始まったばかりの頃は、GMATについてかなり周囲も楽観視していたが、どうもそうもいかなくなってきたようだ。12月までに基準点を満たせば大学院の授業を履修できるが、履修できなければ大学院の開始が遅れる。
鈴木の場合は、正式入学する前の補修クラス("pre-credit"なので卒業単位にはならない)がまだ残っているので、その残りを冬に履修。大学院入学を来年に延ばそうとしているという。
- 谷崎
あれ?あいつ、TOEFLの点数も足りないんじゃなかったっけ?
後ろの席に座っていた谷崎も首をのぞかす。ここで、私が疑問を呈する。
- わたし
あれ?どうしてTOEFLの点数が足りないのに大学院に入れたんだい?おかしいじゃないか、両方のテストで点数が足りないのに?
と首を傾げると、吾妻さんも谷崎も口をそろえて答える。
- ふたり
だって、附属の英語学校から推薦状をもらえば、自動的に大学院の仮入学が認められるじゃん。
私は一年以上もアメリカにいながら、留学にまつわるカラクリを熟知していなかった。
留学にまつわるカラクリ
私が大学院に入った際は、GRE(大学院入試テスト)とTOEFLのテストが必須だった(私の学部は英語学校の推薦状は受け付けてくれなかった)。返って留学制度のカラクリを熟知していなかったので、テストの点数をクリアーすることに専念したのが幸運だったのかもしれない。最近、GMATの点数が足りないのに大学院生になれたり、GREやGMATを要求しない大学院の話を耳にする。「変だな?」と思ったが、他人事なので気にしていなかった。
吾妻さんが説明するに、日本で一切英語を勉強せずに英語学校に来ても一年も経てば、自動的にクラスは上がる。その結果、大抵の生徒は推薦状をもらえるから、大学院に入学が許可され、補修クラスの授業を受けることができる。その間に点数をクリアーできなかった学生はふるいに落とされるが、補修クラス分の授業料は大学に入るから、大学の経営にとってプラスになる…。
- わたし
あ、そうか。うまいなあ。大学の経営も、よくできたもんだなあ。
吾妻さんの話に感心していると、また疑問が沸く。
- わたし
で、そのふるいに落とされた学生はどうなるの?
後部座席から谷崎が口を挟む。
- 谷崎
Kaplanがあるじゃん。
- わたし
カプラン?
アメリカにもGREや、GMAT、TOEFL対策用の予備校があり、Kaplanというそうだ。ちゃんと留学生用にビザも取得でき、鈴木のルームメイトも現在、Kaplanの学生だという。
そのルームメイトと私は面識はないが、彼もMBAのために補修クラスを履修していたが、期間内にGMATの基準点が満たせず、補修クラスを終了。よって履修するべき授業を失い、学生ビザを保持しなければいけない関係上、困った状態になった。学生ビザがないとアメリカには滞在ができない、かといって履修すべき授業がない。よって、Kaplanに籍を移し、現在、GMATの勉強に励んでいるという。
留学とは人それぞれの人生同様、様々な側面があり、すべての人が順調にこなすわけではない。ある人は千鳥足で、ある人はスキップをしながら、ある人は着実に一歩一歩進む。私だって、よたってへたり込んだときもあった。だから、私が彼らの行動を評価することはできないが、自分の経験からいって、そんなに難しかったかしらんという思いが沸いてくる。
私がGREのテストを受けたときは、アメリカで最も定評のある辞書みたいに厚い問題集を買ってきて対策を施した。監督役の吾妻さんに尋ねる。
- わたし
どんな風に彼らは勉強しているの?
吾妻さんは頭に手をやり、後悔したように話し出す。
- 吾妻
いやあ、オレが甘かった。最初に日本語の問題集を渡して傾向と対策をやらしたんだけれども、英語の本番のテストでは、質問の英文が理解できなかったみたい。
なんだか、ギャグ漫画みたいなオチだが、考えてみればTOEFLの点数が満たせていないということは、留学に必要なレベルの英語の基礎力も危ういということだ。より高度なテストであるGMATの英語の設問が理解できなかったといっても、無理のないことなのかもしれない。
- 吾妻
だから、オレが今度英語で書かれた問題集やらせているんだけど・・・まあ、難しいね。
ため息混じりにいうので、私が冗談交じりに提案する。
- わたし
じゃあ、オレが勉強みようか?
- ふたり
おまえが勉強見たら、イライラしてバンバン言葉で責めて、鈴木が逆上すりゃあね。
谷崎も吾妻さんも爆笑しており、私自身もそれもそうだなと、思う。思ったことが口に出るタイプの私は人の世話をするのが苦手なので、人の世話をして良い思いをした経験が一度もない。
- わたし
あのキャラクターを持っているのにねえ・・・
- 吾妻
そうそう、あれだけ面白い個性持っているけど、大学ではテストの点数で評価されちゃうからね。
人間の中身とはテストの点数だけで評価できるものではない。私より勉強のできる人間で屁のような人間も沢山見てきたし、勉強で滞っている人間にも素敵な個性を持っている学生もいる。
- 吾妻
まあ、鈴木、自分が悪いって分かっているからね。
吾妻さんも同じことを考えたらしくフォローしていた。
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母国である程度の英語力を身に付けておくべき理由
私が留学して感じることは、母国である程度、英語力を付けてこなかった留学生は、大学や大学院での勉強が始まると躓きやすいということだ。よく、「留学してから英語の勉強」という言葉を聞くが、これだけは危険だ。もし、留学して大学院や大学で学位を取りたかったら、母国である程度の英語力を身につけてから、アメリカに来るべきだ。
アメリカに来てからやるべきことは沢山ある。英語力の不足は、生活の質の低下を招く。生活の質の低下はとりもなおさず、アメリカへの印象の悪化を招き、留学生活そのものへの不満へと発展していく。留学してからブーブー文句ばかりいって、生活を楽しんでいるとは思えない留学生を私は沢山見てきた。だからこそ、自信を持っていえる。現地に行ってから、英語の勉強。これだけは避けたい。
最後に
15年経ち、この晩の会話を思い出してみると、アメリカの大学や大学院がビジネスライクであることに気付きます。英語が満足にできない学生に補習クラスで勉強をさせても、多くの学生は付いていけないのは明白です。
補習クラスでは大学院生レベルの学生バイトが教えますから、コスト的には安くつき経営上、運営側にとって大きな旨味です。英語学校のパンフレットに「プログラム終了後、提携大学や大学院に推薦状を発行」と謳われていても、すぐには飛びつかない冷静さと、その背景への洞察が、留学志願者には求められるのです。
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この記事を書いた人
初めまして!日本の大学を卒業した後、米国の大学院に留学し漂流し続けること10数年。今年で米国生活16年目になります。お笑い好きの40男が加齢臭を漂わしながら、ミシガン州デトロイト近郊から海外生活と留学の知恵や経験をお届けします。
鈴木がさあ・・・