EU離脱のイギリス、その理由と影響とは?
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「Brexit」とは「Britain (イギリス)」と「Exit (脱退)」を足した造語であり、イギリスのEU離脱問題を意味する。2016年6月24日、誰もが想像上の話だと思っていたこのイギリスのEU離脱がついに現実となった。その背景には何があったのか?残留派・離脱派のそれぞれの主張は何だったのか?そしてこれからの世界はどうなっていくのか?これらの疑問について考えてみたい。
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EUとは
EUとは、もともと戦争防止を目的とした組織から発展したもので、ヨーロッパの経済的・政治的統一を追求する共同体である。
EUに関して重要な3つのこと
- 単一通貨のユーロが導入されている
- EU域内での関税が撤廃されている
- 「人の移動の自由」を実現するシェンゲン協定※が締結されている
※シェンゲン協定:加盟国間を出入国審査なしに行き来することを可能にした協定
ユーロもシェンゲン協定も参加しないイギリス
どれも欧州内でのヒト・モノ・カネの動きを流動化させるための制度である。だが、イギリスはユーロを導入しておらず、シェンゲン協定にも加盟していない。
なぜ参加しないのか
ユーロ不参加の理由には、「国の通貨の管理は選挙で選ばれた一国の国家が行うべきだ」という思想やポンドへのプライドなどがあるといわれている。EUの理念に則り「人の移動の自由」は認めているが、治安などの観点からシェンゲン協定には参加していない。
イギリスはもともとEUから一定の距離をとっていることがうかがえる。
EU離脱の背景
では、なぜ離脱の声が上がったのか?そこには3つの理由があった。
① ユーロ危機の負担
2009年にギリシャが財政赤字の粉飾決算を公開し、続いて南欧中心にユーロ圏に経済危機が連鎖した。この「ユーロ危機」に瀕し、EUは経済支援に乗り出し、非ユーロ圏のEU加盟国イギリスの分担金も使用された。こうした中で、他のEU諸国に経済成長の足を引っ張られることに嫌気が差し始めた。
② 厳しいEU法
EUは加盟国とは別に独自の法体系を持っている。このEU法は極めて複雑で、多岐にわたる。その内実は、掃除機の吸引力やチョコレートのココア含有量など実に細かいものであり、こうした法律規制に多くの企業が頭を悩ませている。
③ 移民の増加
イギリスはEUの「人の移動の自由」の原則によって移民を受け入れなければならない。2004年に経済水準が低い東欧諸国がEUに加盟したため、相対的に賃金が高く、社会保障も充実しているイギリスに移民が集まり始めた。
2016年6月現在、イギリスの移民は35万人近くいる。こうした移民は建設現場や工場などで必要とされている一方で、現地の賃金水準の低下や失業率の増加の要因ともなっている。これに対し、イギリス人の労働者階級を中心にEUへの反発の声が強まった。
国民投票へ
2015年の総選挙で、キャメロン現首相は選挙公約としてEUの残留・離脱を問う国民投票の実施を掲げた。キャメロン自身は残留派であったが、反EU派の人々の支持取り込みたいといった思惑があったとされる。
その公約通り、2016年6月23日に国民投票が行われる運びとなった。だが、在任中に離脱派を説得しようというキャメロンの考えは思わぬ結果をもたらした。まず、残留派・離脱派のそれぞれの主張と支持層からまとめてみたい。
残留派の主張
① 経済面
離脱はイギリス経済にとって大打撃となる。対EU輸出に関税がかかるとなれば、EUへの窓口としてイギリスに投資していた外国からの投資が減る。景気が悪化する。
② 移民面
移民は労働力として経済の成長に貢献する。工場や医療、建設現場での労働力として欠かせない。
③ 安全保障面
EU他諸国からの信頼低下し、NATOが弱体化する。
④ 支持層
若者、都市部居住者、高学歴、高所得者
離脱派の主張
① 経済面
世界5位の経済水準をもってすれば、脱退後EUと自由貿易協定を結ぶことも可能。
② 移民面
失業率の増加、公共サービスの圧迫の要因となる。
③ 安全保障面
EUの「人の移動の自由」によりテロの脅威が増す。
④ 支持層
英国人労働者階級、地方居住者、低学歴、低所得者
残留派は経済的メリット、離脱派は移民の増加に伴う脅威を軸に主張している。また、離脱派はEUに縛られない自主性の獲得にも強い意志を持っている。
イギリス各社の世論調査
イギリス各社の世論調査では、残留派・離脱派がかなり拮抗していたが、6月の世論調査では離脱派が10ポイント以上優勢であるとの調査も出た。しかし、6月16日、離脱派で極右政党との関連が指摘されている男により、残留派の女性議員が銃殺されるという事件が起こった。
その結果、残留派が一気に追い上げ、一時離脱派を上回った。この勢いがそのまま続くとの見方が大半だったが、実際は異なった。
2016年6月23日国民投票の結果
- 残留派:48.1%
- 離脱派:51.9%
※投票率72.2%、有権者は4650万人
3.8ポイント差の僅差で離脱派の勝利となった。
現地の報道
EU離脱を受けて英メディアは次のように報じた。
The guardian
「離脱派が勝利したのは、非常に多くの有権者がEUを権威主義、苛立ち、議会制民主主義への軽蔑と結びつけて考えたからである。」
BBC
「離脱への投票は国家としてのアイデンティティに対する意思表明であった。」
The Economist
「終わりのない困難、つまり混沌が待ち受けている。」
The Independent
「EU離脱は若者や学生の未来を妨げ、イギリスの将来にダメージを与える。」
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イギリスでの影響
イギリスにとって、EUからの脱退は域内関税の撤廃を手放すことを意味する。日本やアメリカをはじめ世界各国がイギリスに企業を進出し投資を行うのは、対EU輸出の拠点とするためであった。
しかし、関税がかかるようになった今、そうした企業の多くがイギリスから撤退してしまう恐れがある。それに伴って大量の失業者が生まれ、イギリス経済は大打撃を受ける。英財務省の試算によると、15年後のGDPは-7.5~-3.8%の下振れになると予測されている。
日本への影響
イギリス経済が不安定になったことで、投資家たちはポンドやユーロを売り、より信頼のある円の買いを進め、円高が進行する。それによって日本の輸出産業は打撃を被り、景気回復が遠ざかってしまう。また、企業のイギリスからの撤退に伴うコストなど、様々な面で日本経済に悪い影響を及ぼしかねない。
諸外国の反応
各国のトップはEU離脱に対して次のように発言した。
ドイツ
「我々はイギリス国民の決断を遺憾に思っている。EU離脱は明らかにヨーロッパそしてその統一への過程に対して大きな打撃となる。」
アメリカ
「イギリス国民は声を上げたのであり、我々は彼らの決断に敬意を表する。米英間の特別な関係は永久である。」
フランス
「EU離脱の決断を大変遺憾に思っているが、EUは前に進むために変わっていかなければならない。」
日本
「投票結果が世界経済や金融、為替市場に与えるリスクを懸念しており、金融市場の安定化に万全を期す必要がある。しっかり対応していく必要がある。」
今後の展開
今後イギリスは離脱に向けた手続きをし、順調にいけば2年後にはEU離脱が実現する。
英国内では、残留派であり、国民投票の実施をしたキャメロン首相が既に辞意を表した。これにより、離脱派を率いた前ロンドン市長ボリス・ジョンソンが次期首相の候補に挙がっている。
国外では、経済大国で同時に分担金が多いドイツやフランス、他のEU諸国で離脱の機運が高まる可能性がある。反EUの風潮の中、ドイツ「ドイツのための選択肢」、フランス「国民戦線」、イタリア「五つ星運動」といったEU離脱、移民排斥などを掲げる各国の極右政党が台頭していくことも考えられる。
最悪のシナリオとして、「EUの崩壊」も空想の話ではなくなってきた。
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この記事を書いた人
東京の大学生。8月からアメリカに交換留学。国際開発に携わりたい経済学部生。