今見えている階層はアメリカの一面でしかない。貧困層の生活を垣間見た日

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私はロボコップ発祥の地、アメリカ・ミシガン州はデトロイトの近郊に住んでいます。デトロイトは破産したばかりと楽しいニュースがありません。今回は「貧困」に関して私が体験した話をしたいと思います。

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私は一応これでも仕事を持ち、ビルゲイツから見れば私も貧困層かもしれませんが、明日のご飯には困らない生活をしております。周りを見渡してみても、アメリカ人の友人の大半が大卒でそれなりの生活をしている様子に見えます。

一般的にミシガン州の家は、東京の家屋より大きく土地も安いので、それなりの所得でもかなり立派な家が買えます。駐在のために渡米した日本人の場合、会社が住宅の手当をしてくれます。治安の良い郊外に家を借りることが多くなるため、大半のアメリカ人が贅沢な生活をしているように見受けられるかもしれません。

ボランティア活動に参加した日

数年前、私の友人がクリスマスのボランティアに誘ってきました。聞いてみると、彼女のお母様が教会でボランティア活動をなさっており、クリスマスのプレゼントを恵まれないティーンエイジャーに寄付するとのこと。さらに実際にプレゼントを購入し、ダウンタウンにある施設まで届けるのがミッションだということです。

私は普段教会には足を踏み入れませんが、信頼できる友人が新しい経験を提供してくれる際は、必ず「Yes」と返答することにしています。いくらかのお金を寄付し、指定された日時に、Sams’ Clubに集合するよう言われました。

10代へのプレゼントが紙おむつ?

プレゼントの購入のためにSam’s Club集合というのはちょっと意外です。なぜなら、通常「プレゼント」はちょっとお洒落なショッピングモールで購入するのが普通でして、Sam’s Clubは会員制のスーパーマーケットですから、プレゼント向きの洗練された商品は置いてありません。首を傾げながら、現地に向かいました。

現地に着くと彼女の友人たち数人とお母様が待っており、事前にリクエストされたプレゼントのリストを渡してくれました。リストを見てみると、

  • 大量の紙おむつ
  • Tシャツ トレーナー 下着など
  • 生理用品
  • 歯ブラシ
  • タオル各種
  • シャンプー・リンス・石鹸
  • 料理道具一式

といった生活用品ばかりで、私はいささか拍子抜けになりました。プレゼントといえばプレイステーションなどのゲーム機器や素敵な洋服、ネックレスなどを予想していたのですが、あまりに地味なリクエストです。

せいぜい嗜好品といえば、末尾に書いてあるCDプレーヤーとヒットチャートのCDぐらいでして、ダウンロードで音楽を楽しむはずのティーンエイジャーにしては古風な音楽の楽しみ方です。なぜ、紙おむつが必要なのか。また要求される下着のサイズも非常に大きめで、十代の子供用のサイズには思えません。何はともあれ、商品を見つけるために広大な店内に散らばりました。

小一時間掛けて皆で集めた商品をチェックしてみると、寄付金の範囲内で購入できる物品はこの程度だと判断されました。皆で手分けして二台のバンに積みこみ、ダウンタウンに向けて走り始めました。

車内では初対面のアメリカ人が必ず私にしてくる「どこから来たの?」「どうして来たの?」「なんでアメリカにいるの?」という三大質問に答えながら、どこかピクニックの雰囲気になっておりました。

プレゼントが日常生活品であった訳

一般的にデトロイトの郊外に住んでいる人たちは、頻繁にはダウンタウンに足を運びません。近年こそダウンタウンにレストランや劇場が増えてきましたが、未だに繁華街として栄えているとは言い難い状況です。高速道路を抜け、荒廃した家々が立ち並ぶ一角に、その施設はございました。

中に入ってみると、古い家を改築した施設は、小奇麗に整理され、健康的な雰囲気が醸しだされておりました。案内してくれたのは地元で中学の先生をしている女性です。この施設では若いうちに子供を産んだ十代の女の子や住む家のない十代の女の子を引き取っているそうで、合わせて7,8人の女の子が共同生活をしておりました。

皆十代ですから、顔を見るとあどけなく、まだ親元で過ごしていても不思議はない印象です。ですが、すでに子供を産み母親の子もいます。手にはまだ乳飲み子といえるぐらいの小さな赤ちゃんを抱えているのも散見されます。

これで、なぜプレゼントのリクエストが地味な内容だったのか、合点がいきました。彼女たちにとって特別なプレゼントは、日常の生活用品であるという事実に直面し、私は言葉がでませんでした。他の友人たちも同じらしく、プレゼントを受け取り喝采する側とは対照的に、プレゼントを届けた側は急速に静かになりました。

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「Establish the life」とは

それにしても、気になるのは、説明を担当される先生のおっしゃるところの、この施設の目的です。「Establish the life」という表現を使い、いまいち「Life」の意味合いがつかめません。私が思わず口を挟むと、先生は丁寧に説明してくださいました。

曰く、子供は親から生活の基本を受け継ぐ。つまり朝起きて歯を磨き、顔を洗い、身支度をして学校に行き、勉強し、家に帰り宿題などをして、社会で生きていく生活の基礎を身につける。

当然、生活をする上で勉強についていく努力、生活費を抑えるためや健全な食生活のための自炊のやり方、病気になった時に助けを求めるなどのコミュニケーション能力、自分でやりくりする金銭感覚などが必要になるが、この施設にいる子たちの大半は、親からそういったことを学ぶ機会がなかった。そこでボランティアの先生方や地元の人たちが協力し、この施設で自分の生活をつくる機会を提供しております・・・

私は話を聞きながら、この施設にいる十代の子たちの大半は親を知らないのではないかなと思いましたが、この疑問を口にだすことはためらいました。先生はユーモアを交えて話を続けます。

「この子たちったら、自分の産んだ赤ちゃんが可愛いから、もうひとり、欲しいっていうんですよ。その度に私は『Stop! Stop!』って止めるんです」と笑い、私達はどう反応していいのかもよく分かりません。

くわえて、色を指摘して恐縮なのですが、プレゼントを与える側が白、受け取る側が黒とはっきり分かれていることも私には印象的です。今回は特別参加で白に黄色が一匹混じっておりますが、相手をしてくださる先生も同じことに気づいたのでしょう。私の素性について尋ねられました。

私の友人が、私が日本からやって来てデトロイト近郊で仕事を持っていることを話すと、「あら、あなた方、海外からの素敵なお友達をお持ちじゃない」という言葉に、私はなんだか見てはいけないようなアメリカの恥部を見に来てしまったようで、複雑な心境になりました。

アメリカの格差社会

プレゼントを渡し、アメリカ流にhugでお礼と別れを告げると、帰りの車内はまったく会話のない静かな帰り道になりました。皆、深刻な顔をしており、私達は自分の住む街に戻ると言葉少なに解散し、私は友人にお礼を伝え自宅に戻りました。

小林由美著「超・格差社会のアメリカの真実」によれば、アメリカは4つの階層に分かれていると言います。一番上は純資産10億ドル以上のビリオネアと1億ドル以上の資産を持つ「特権階層」。その次が「プロフェッショナル階層」「貧困層」「落ちこぼれ層」と続き、単純に年収で階層を区分しています。

アメリカは歴史が浅く、移民出身者が多いため、日本のように家柄というものがあまり重視できません。よって、年収によって階層を区分する傾向が強く、私がプレゼントを渡してきた相手も、失礼ながら落ちこぼれ層にあたると思います。

しかしアメリカには不法移民もいますから、もっと劣悪な環境が考えられるということです。また特権階層とプロフェッショナル階層は、総世帯のたった5%未満しか占めませんが、そこに全米の富の60%が集中しております。この統計データが正しければ、私が自分の生活を通して見ている「アメリカ」は、ある階層の薄い一層に過ぎなく、私の知らない階層がまだまだあるということになります。

最後に

この一件以来、何かの拍子に日本から来た方が、「本当にアメリカ人って金、あるよね」といったりしているのを見聞きすると、激しい憤りを感じるようになりました。

この怒りは私の勝手なエゴであり、他の階層をあまりに知らなかった自分への戒めでもあります。井戸の中の蛙が大海を見たからといって、他の蛙の行状をバカにすることは慎むべきですが、私自身は甘い井戸の水だけで満足はしない蛙でいたいと考えています。

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この記事を書いた人

命かげろう
命かげろう

初めまして!日本の大学を卒業した後、米国の大学院に留学し漂流し続けること10数年。今年で米国生活16年目になります。お笑い好きの40男が加齢臭を漂わしながら、ミシガン州デトロイト近郊から海外生活と留学の知恵や経験をお届けします。

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