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話を聞くとき人は「予測」してる?ことばと脳科学を研究する留学生ーーエジンバラ大学留学経験者にインタビュー
「今までは、人が話を聞いているときって『理解』のプロセスだと考えられてきたんです。でも本当は…」笑顔とかすかに興奮した声でそう話すのは、名門エジンバラ大学で心理言語学を研究した留学経験者、伊藤愛音さん。アジアとヨーロッパのさまざまな大学で留学を経験した彼女だからこそ語れる、留学の醍醐味と大切な心がありました。そんな伊藤さんが情熱をそそぐ心理言語学研究と、それを支える彼女の強い姿勢に迫ります。
今回インタビューを受けてくれた留学経験者
今回の留学経験者インタビューは、イギリスのエジンバラ大学にて留学を経験した「伊藤愛音(いとうあいね)」さん。日本の高校卒業後、単身中国に渡り上海復旦大学、華東師範大学で学部生として留学、その後イギリスのエセックス大学で修士課程を修了しました。
現在はエジンバラ大学で心理言語学の博士課程を無事に終えるところです。留学経験豊富な伊藤さんが語った、彼女にとっての留学の醍醐味とは?
きっかけは中国にあり!?
ーー 留学を考えるようになったきっかけはなんですか?
最初は通訳になりたかったんです。高校の時は英語がすごい好きだったんですが、もう一個何か強みがほしいなと思って。それで、ビジネスで使える中国語を勉強しようと、最初に中国の大学に行くことにしました。
中国の大学では、言語学も含めていろんなことを学べる総合的なコースで、言語学、歴史、文学とちょっとずつかじるような感じで勉強しました。そのときに言語学を1コマか2コマだけ取ったんですけど、すごい面白いなと思ったんです。その時に、「あ、なんか通訳じゃなくてもっと言語のエキスパート的なことやりたいな」と。
それだったら、大学院とかに進んで言語の研究してみたいと思いました。そこで、イギリスの修士課程だったら一年で終わらすこともできると知り、やってみることにしました。
ーー すごい挑戦!でも中国だけでも複数の大学で勉強されて、かなり時間がかかったのでは?
中国は飛び級できるので、学部生1年の間に中国のレベルさえあれば3年に飛び級できるんです。他の科目はできなくても大丈夫なので、アメリカよりは難しくないですよ。
ーー では中国語の勉強、すごく努力されたんですね!!
そうですね。とにかく言語を勉強するのが好きで…!!それまで留学したこともなかったんですけど、高校時代、英語はずっと大好きでした。高校は普通の公立だったので、英語の勉強は授業と、あとはほとんど自主勉強で、本読んだりしてました。
中国に行く前は、中国語は「ニーハオ」しか言えないレベルでした(笑)。でも中国の大学は9月始まりなので、高校卒業してすぐ4月から中国に渡って、大学の学習機関で中国語のコースを取りました。そこで入学までに中国語を最低限のレベルまで伸ばしました。
聞いているとき、ヒトは「産出」している?
ーー ではここからは、伊藤さんがエジンバラ大学留学中に行った研究について訊かせてください。すでに論文を提出されたとのことですが、どのような研究をされたんですか?
私の研究テーマは「言語の予測」です。特に、「人は聞き手側のとき、話し手が次に何を言うかを予測しながら聞いている」ということを検証しました。
具体的には、人はどういう場面で予測をするのか、ネイティブスピーカーとノンネイティブスピーカーそれぞれが行う予測に違いはあるのか、他の事をしながら聞いているときも同じような予測のプロセスをするのかなど、いろんな場面での予測の状況を研究しました。
ーー 研究を通して、どんな発見がありましたか?
今のところ、私が得られた発見を二つの論文にして発表しています。
1つ目の発見として、人は聞いているときに言語の「産出能力」を使って予測しているという理論が提唱されているんですが、言語を話す(生み出す)、産出するときのパターンと一致している予測のパターンを発見しました。人は話を聞いているとき、頭の中では、自分が話し手だったらどう話しているかを予測しているんです。その理論と一致している検証結果を一つジャーナルに出版しました。
2つ目の論文では、ノンネイティブスピーカーの言語予測を主に書きました。ノンネイティブスピーカーは、ネイティブスピーカーに比べてそこまで予測はしていないということが分かりました。聞き手はどんな場面で予測し、どんな場面で予測しないのかということを調べ、予測は誰もがいつでもするわけではなく、予測のプロセスにも限界があるということを発表しました。
ーー なるほど…。「産出能力」というのは、「聞いているときに自分だったら次に何を話すか予測するプロセス」ということですか?
「産出能力」自体は、言語を話す、書くなど、言葉として生み出す能力のことですが、今までは、人が話を聞いているときって「理解」のプロセスだと考えられてきたんです。
でも、産出能力を使って予測をしているという理論は、聞き手は、聞いていることを頭の中でリピートしていて、声には出さないものの、話し手がしているようなプロセスをしていると提唱しています。
ーー ええ!!面白い!私もてっきり、聞き取ることは「理解」のプロセスだと思っていました…。「予測」している、ということは、「言葉を生み出す」ことをしていたということなんですね!
科学的に書く力を身につけた4年間
ーー 研究の中で、難しかったことは何ですか?
実はこの論文を一つ書くのに7~8カ月くらいかかりました。文章としてはそんなに長くなかったんですけど、私は4人の先生についてもらっている分4人の異なった意見を聞くので、なかなかまとまらなくて。1人の先生の意見を聞いた後、書き換えて、それをまた別の先生に見せると、「ここは良くない」って言われて、また書き換えて…。
でも4人の先生のうち1人、みんなの意見をまとまるのがすごく上手い先生がいて、4人の意見の間を親身に取り持ってくれたんです。それでなんとか完成させることができました。
ーー 4年間の留学を経て、自分の中で変わったことはありますか?
主にすごい学んだなって思うのが、科学的な文章を書く能力ですね。言語学の文章であっても、科学的に書く力です。今までそういうスキルはつけてこなかったんですけど、エジンバラ大学では脳波を図る実験の技術もつけることができました。
大切なのは、実験が終わった後に、その結果の何が面白いのかを考え、それをどうやって面白く書き、他の人に分かってもらえる文章を書くか、ということなんです。
ーー それをすべて詰め込んだのが、出版された論文なんですね?
そうですね、終わった時にはすごい達成感でした!!
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これからも続く研究への意欲
(↑学会で発表を行う伊藤さん)
ーー 今後の目標は何ですか?
研究を続けていきたいです。ゴールははっきり見えてないんですけど、もっと研究のスキルをつけて、もっと出版もしていきたいです。
ーー 次はどのような研究がしたいですか?
今いくつか研究費を申請しているところなんです。その際にResearch Proposalというものを提出したのですが、研究内容は、「人は話しているときに、文字を書くフォームをどのように思い浮かべているか」としました。例えば対象が日本人だったら、会話中に漢字をどのように思い浮かべているか、という研究ができます。
人は話すときに「書くフォーム」と、「聞くフォーム」を同時に頭の中に浮かべている、と私は考えているんです。英語って、「書くフォーム」も「聞くフォーム」もシステマティックというか、音と文字が一致していますよね。でも日本語は、意味とは一致していても音とは一致していない。
ーー えーっと、日本語は、一致していないんですか!?
例えば、「犬」と「大」は書くフォームでは似ていても、発音は似ていないですよね。だから日本語を使った研究をやってみたいんです。聞く時って、漢字を思い浮かべなくても聞けるじゃないですか。話している時も、必要はないですね。
ーー あ!本当ですね!
でも無意識に脳は、漢字を思い浮かべてアクティブになっている、という状態になります。これが脳のシステムにとって有利なのか、利点はあるのか、研究したいんです。
ーー このテーマもまた面白い…!
その研究プランが通ったら、日本でも研究する予定です。この前は脳波の実験器具を使いましたが、次は目の動きを測る実験器具を使います。
ーー そういえば留学中の目標として、研究だけでなくドイツ語の習得もあったんですよね?
はい。エジンバラ大学には、無料で受けられる語学の授業があるんです。そこで勉強していました。
それから、ドイツも心理言語学の研究者が多い国なんです。しかもドイツ語だと、英語では研究できない要素が研究できるんです。英語と違ってドイツ語には文法に性があるから、例えば「The」にも性がつくので、それを利用して実験をすることもできます。その特徴のおかげで、次に発せられる言葉の予測ができるという研究もすでにあるんです。意味の予測だけじゃなくて、文法の予測の研究ができるので、ドイツ語に魅力を感じています。
留学の醍醐味=自分を発見できる機会
ーー どんどん新しい環境で挑戦していく姿勢、本当にすごいです!ポジティブなお話が多い印象ですが、辛いことはなかったのですか?
そうですね、家関係で、会社にだまされたときとかは、すごいショックでした。でもそのとき家族とスカイプしたら、親は「それも勉強やで。お金払って勉強できたって思い。」って言ってくれました。離れていても、話を聴いてくれる存在として、両親は大きかったです。
留学は良い意味でも悪い意味でも、自分の新しい面を知れたり、自分の合う合わないを発見できる機会がたくさんあります。でも私はそれがすごく楽しいです。
ーー 伊藤さんが留学を通して新しく見つけたのは、どんな一面でしたか?
文化的な面ですね。自分の何が日本っぽいのか、考える機会が何度もありました。時に、すごい日本人の一人としてふるまってしまう自分とか。その中で日本人としての良い面、悪い面が見えてきて、「じゃあ自分はどんな人になりたいかな」って考えるんです。
私って日本にいるときから、間接的な言い方をする人だったんです。日本では伝わるけど、外国では伝わらないときもある。それを、日本の良いところとしても思うし、でも外国ではそれが上手く伝わるわけじゃないことも分かりました。
ーー 葛藤してしまいますね…。
そういう時私は、「じゃあ自分はどうしていきたいか」って考えます。直接的な彼らの言い方を真似するのか、また違う言い方を探すのか。たぶん私だったら、言い方は変えても、日本人の良さも含めた言い方を選びますね。
こんな風に、いろんな考える機会をくれるのが留学の魅力だと思います!
常に目標をもって、ゴールを考えて
ーー では最後にTHE RYUGAKU の読者へのメッセージをお願いします。
留学したらいい面でも、悪い面でも、日本と違うこと、自分のイメージと違うこと、自分にとって合わないことがたくさんあると思うんです。それでも常に目標があったら、ゴールがあったら、そこ行くまでは頑張るってなるので、家に帰ったら常にゴールを考えることが大切かなと思います。
エジンバラ大学では、研究の面でも、生活面でも、苦労はあってもやりたいことができました。
ーー 「常に目標をもつこと」は、実際に伊藤さんが大切にしていたことですよね?
そうですね。論文を出版できたっていう実績が、自分でも分かるのが嬉しかったです。以前の履歴書と、今の履歴書を比べてみても、「ああ成長したな」って。目に見えて分かるっていうか。成長をすごい感じました。そういうのが実感できるのが、留学のいいところです。
編集部コメント
懸命に中国語を学んだことで発見できた、言語学への興味。4人の先生についてもらいながら一生懸命研究したからこそ発見できた、言語の予測プロセスの面白さ。つらいことも、自分にとって嬉しくない発見も楽しむ姿勢で乗り越えたからこそ発見できた、自分の成長。
伊藤さんのように新しい場所へ飛び出し、新しい発見を楽しむことが、留学をもっともっと面白くするコツなのではないでしょうか。
☆伊藤愛音さんがエジンバラ大学留学中に初めて出版された論文 『Predicting form and meaning: Evidence from brain potentials』 はこちらからお読みいただけます!
今回紹介した学校の口コミ
名称 | University of Edinburgh(エディンバラ大学) |
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国・都市 | イギリス / スコットランド / エディンバラ |
学校形態 | 大学 大学院 |
住所 | Old College, South Bridge, Newington, Edinburgh EH8 9YL イギリス |
電話番号 | +44 131 650 1000 |
公式サイト | http://www.ed.ac.uk/home |
口コミサイト | https://ablogg.jp/school/2415/ |
インタビュアー
佐藤果歩(さとうかほ)/早稲田大学3年/アブログインターン生