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肉食文化はキリスト教の影響?アメリカの食の背景を探る

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海外生活における楽しみの一つは、やはり現地の食べ物ではないでしょうか。かくいう私もアメリカ生活の大きな楽しみの一つに、いろいろな種類のレストランでの食事が挙げられます。アメリカは移民で成り立つ移民大国なので、実に様々な種類のレストランが立ち並び、食品が手に入ります。今回はアメリカの食に関して、話していきましょう。

アメリカンな食べ物とは?

私は時折、アメリカへ出張に来た日本人社員と食事を一緒にする機会があります。その際、「何かアメリカ的なものを!」とリクエストを受けることがあります。

「アメリカ的」の表現がクセモノでして、一部の日本人に悪名高き「カリフォルニアロール」もある意味、アメリカ的です。しかし、日本人社員が言うアメリカ的とは、寿司がアメリカナイズされたことを言っているのではないでしょう。きっと、アメリカでしか食べられないものという意味に違いありません。

結局いつも無難に極厚のステーキになるのですが、よくよく考えてみると、アメリカンな食べ物って何でしょう?ハンバーガー、ステーキ、ピザ・・・?アメリカは移民の国ですから、海外からやってきてアメリカに定着した食べ物が少なくありません。

例えば、ハンバーガーの中に入っているハンバーグはドイツ由来かもしれません。ドイツにはハンブルグという土地があり、ハンバーグという名称はその地名に由来していると聞いたことがあります。ステーキもアメリカ産でしょうか?ピザはイタリア由来であることは間違いがありません。ハンバーガーやステーキの横によく鎮座しているフライドポテト(こちらでは「フレンチ・フライ」と呼ぶ)も、おフランス製かもしれません。だって、「フレンチ」フライですから。

今回、アメリカの食べ物の由来を調べるべく、一冊の本、『 食の世界地図 』を手に取りました。

アメリカの食べ物の由来

『食の世界地図』には世界で食べられている代表的な料理の由来が書いてあるのですが、大変面白く、海外で生活する人にとって必読でしょう。ここで先程の問いの答えをまとめてみます。

ハンバーガー

通説では、ドイツはハンブルグで食べられていたハンバーグステーキがアメリカに来て、パンの間に挟まれて誕生したらしいです。このハンブルグステーキは、モンゴル系の騎馬民族タタールの食べていた生肉料理がハンブルグで焼かれるようになったことが始まりのようです。

ステーキ

発祥地はイギリス・ロンドン。フランス語ではビフテク、イタリア語ではビステッカ、ロシア語ではビーフシュテクで、語源は同じです。英語の「steak」の語源は、「stick」と同じで、もとはトルコのシシュケバブのように串焼きだったらしいです。それが、肉の切り身をフライパンで焼く形に変化したとのことです。

フレンチフライ(フライドポテト)

フランス由来かと思えばどっこい、ベルギーが発祥の地でした。ベルギーのフランス語圏では「フリッツ」、オランダ語圏ではフリテンと呼ばれます。どちらも、単純に「揚げ物」という意味だそうで、なぜアメリカでフレンチフライと呼ばれるようになったのかは不明なようです。フランス語で話ながらポテトを食べていたベルギー人を、フランス人と勘違いし、「フランス人の揚げ物→フレンチフライ」となったのかもしれません。

※ピザは明らかにイタリア由来ですから割愛します。

というわけで、こうやって調べてみると、気軽にアメリカで食べている料理にも意外な背景が隠されていることが分かり、なかなか興味深いです。

バーベキューこそ真のアメリカン料理

現在アメリカでよく食されている料理が外国由来であることは分かりましたが、じゃあ、本当の意味で(?)アメリカンな料理はないのでしょうか?

『食の世界地図』では、真のアメリカ料理として、バーベキューを挙げています。バーベキューの語源は、西インド諸島の先住民の言葉であるタイノ語とのこと。肉を焼く木製の台であるバルバコアにあるらしいです。それがスペイン語のBarbacoaになり、英語のbarbecueになったそうです。

このバーベーキューは、実際にアメリカのフロンティア精神をちょっとだけ感じさせてくれる料理でして、私はアメリカ人のパーティーに呼ばれると串焼きになった肉や野菜を頬張るのを楽しみにしているのですが、一般的にアメリカ人の家庭ではお父さんが焼く役割と決まっています。

日本の家庭でも鍋奉行はお父さんですので、それなりに各家庭の特色が出ます。私の日本人同僚宅ではアメリカ人のご主人が放っておくと、毎日バーベーキューをしかねないそうで、肉、肉、肉の連続に悲鳴を上げるとのこと。

私はその苦情を聞いてちょっと驚いたのですが、アメリカ人の家庭では奥さんが料理をしないことも珍しくありませんから、ご主人が料理をするということになりかねません(両方共しない場合は、外食になる)。私の同僚は料理が苦手にもかかわらず、ご主人の肉攻撃に辟易し、私からいくつかの簡単な和食のレシピを持って行きました。

考えてみると、家で子供の頃から毎日バーベキューばかりするので自分はベジタリアンになったというケースも聞いたことがあり、私が想像する以上に、アメリカ人のお父さんのバーベキューに対する情熱は熱いのかもしれません。

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肉食が多いアメリカ人

こうやって周囲を見渡してみると、実にアメリカ人は多くの肉を食することに気付かされます。スーパーに行っても牛肉が安く、週末に大量にステーキ肉を買っていく家族も珍しくありません。

他方、アメリカではペットとして犬や猫を飼うことが一般的です。特に犬に対してのアメリカ人の偏愛(ごめんなさい)は強く、動物愛護と牛や豚を殺して食べることに矛盾はないのか、私にはちょっと興味がございます。考えてみると、牛や豚を殺して食べることに躊躇がない割に、クジラには抵抗があるようですし、どうやって動物愛護と屠殺に折り合いをつけているのでしょうか。

鯖田豊之著『 肉食の思想―ヨーロッパ精神の再発見 』では、下記のように解説され、この思想の根底にキリスト教の存在を指摘しています。

人間と動物のあいだにはっきりと一線を画し、人間をあらゆるものの上位におくことである。そうすれば、いっさいの矛盾は解消し、動物屠殺に対する抵抗感もなくなるはずである。

鯖田豊之著『肉食の思想―ヨーロッパ精神の再発見』58ページ

著者は、日本に来たカトリック宣教師たちの手記を引き合いに出しています。宣教師たちは、肉食を行わない日本人の食生活の粗食さを嘆き、それに適応しなければいけないと書き残しているそうです。

アメリカ人が日本にホームステイした体験

実は同様の意見を、私のホストファミリーから聞いたことがあります。彼ら夫婦は30年ほど前、新潟県にホームステイをしました。日本の和室、日本の風景、日本のお風呂、皆どれも目新しいものばかりで楽しかったそうですが、食事だけは音を上げたそうです。

いくつもの塩っぽい保存食の野菜(漬物)、魚のドライフード(干物)、ごはん、味噌汁と、肉のかたまりがないためアメリカのステーキやハンバーガーが恋しかったとのこと。ある時、アメリカ食を皆で食べようという話になり、日本人家族を通してピザを注文したところ、ツナにマヨネーズがかかった珍妙なピザが配達され、これまた閉口。

私は話を聞きながら、大爆笑をしたのですが、これも肉食ゆえの感覚なのかもしれません。

人間中心のキリスト教

『肉食の思想―ヨーロッパ精神の再発見』では、「人間をあらゆる生物の上位に置く、人間中心主義のキリスト教であるがゆえに、死後、動物にもなりうる輪廻を否定。動物愛護と動物屠殺を矛盾なく行うため、人間中心の思想が必要となってくる」と説いています。

土地が痩せ、穀物だけで食事をまかなえないヨーロッパ人は肉をメインに食べざるを得ず(西洋ではパンは主食ではありません)、強力な断絶倫理を生んだといいます。その断絶倫理は、人間と動物、ヨーロッパ人、非ヨーロッパ人、キリスト教徒とユダヤ人の間のみならず、ヨーロッパ人自身も階層に分け隔てる歴史をつくったと結んでいます。

加えて、貴族のいないアメリカにもその階層意識は波及し、階層社会を形作っているといいます。

肉食に対するユニークな考察

この本は西洋人がなぜ、日本人とくらべて肉食をするのかという点から、西洋の階層社会に言及しているのですが、非常にユニークな考察で、類似の本にお目にかかったことがありません。

ところどころ独断的なところもございますが、キリスト教が他の宗教に対して排他的に接するのに対し、日本では宗教が非常に協調的なところなど、私も以前に『 アメリカでボケ・ツッコミは通用しない!?アメリカと日本の「笑い」のセンスの違い 』で指摘しています。

実のところ、アメリカで生活をしていて、時折、この排他的なところを私は感じるのですが、インターネット上で公表するにははばかれますので、詳しくお話しするのはまたの機会にいたしましょう。

最後に

アメリカで生活を始めると、どうしても日本食だけに頼ることができず、現地で手に入る野菜、肉類などによって毎日の献立が変化する思います。簡単に手に入る軽食が「ラーメン、立ち食いそば、牛丼」から「サンドイッチ、ハンバーガー、サラダ」に変化し、否が応でも口に入ってきます。

一部にその変化を大変嫌がる方もいらっしゃるのですが、こういった歴史的、文化的背景をご存知だったら、もっとその変化を楽しめるかもしれません。

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