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キリスト教が「世間」を壊した?一神教社会が作る「契約」と「責任」

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一神教社会の特徴を理解することは、海外生活をより円滑に送るためのヒントになります。最近、宗教に関する記事が続いていますが、今回も「一神教社会における責任」について書いていこうと思います。

「個の倫理」で行動を取るアメリカ人

留学関係や異文化コミュニケーションのガイドブックによく書いてあることですが、日本人はレストランで注文する際、自分で決められない。アメリカ人は欲しいものをはっきりいう。だから、日本人は・・・ という主張をよく目にします。

私も影響されて、渡米直後は意識的に自分の欲しいものを口に出していました。しかし、在米生活が長くなるにつれ、だんだんアメリカ人は私たちとは違うルールで注文しているのではないかなと考えるようになってきました。

この体験は以前、「 海外で日本人同士の人間関係を上手く乗り切るには?-場の倫理と個の倫理 」の記事で「個の倫理」として解説しました。

アメリカ人とグループで行動をすると、行き先を決めるにもいちいちディスカッションがあり、自分も主張しなければいけないので、疲れるという人も多いことでしょう。日本人のグループであれば、お互いがお互いを察し合い、なんとなく集団の方向性が決まるものだと思います。

学生に意見を求める大学教授

私はアメリカで大学院生になりたての頃、懇意にしていた大学教授が私に真摯に意見を求めてくることを嬉しくも、また同時に面倒にも感じておりました。日本ではぺーぺーの学生が教授に意見することは、あまり起き得ないことです。英語で意見を述べることは大変なことですし、バカなことをいえば、勉強不足であることが分かってしまいます。

明らかに社会的にも年齢的にも上の存在である大学教授が、対人関係において学生と同等というところが、私にはアメリカの大学教育の優位点にすら見えたのですが、これには異論もあるかもしれません。

突然休暇を取るアメリカ人

アメリカで社会人生活をしていると、アメリカ人職員の身勝手とも見える行動に翻弄されることがあります。

いま現在、私の会社で実際に起きていることですが、ある従業員が上司と衝突し、突然休暇をとって姿をくらましてしまいました。その従業員はデータの入ったノートパソコンも持って行ってしまい、誰もどこまで仕事を進めていたのか知りません。

私の部門は困った事態になっているのですが、これが周囲を気遣い有休も取らない日本人だった場合、あまり起き得ない事態ではないでしょうか。

私が一神教に興味を持つ理由

では、なぜ一神教徒でもない私が一神教に関心をよせるのか。それはひとえに、アメリカ人は私とは違う人間関係の倫理で動いており、私の考えでは、その背景には一神教が見え隠れするのです。

脚本家の鴻上尚史氏は著書『 「空気」と「世間」 』で、 「世間(場の倫理)」、「社会(個の倫理)」という言葉を使い、よく似た人間関係を説明していますが、日本人の「世間」と欧米人の「社会」をはっきり分け隔てる存在に、一神教であるキリスト教を挙げています。

鴻上氏はキリスト教が世間を壊したと述べており、共同体の中で生活をしていた人々に、ごちそうをされたらお返しをすることを禁じた中世のカトリック教会を例に出しています。

お返しをできない人にごちそうをすることが神が求めているのだという倫理観により、贈与の概念による「お返しをしなくっちゃ」という焦りはなくなったといいます。

一神教の誕生

本村凌二著『 多神教と一神教―古代地中海世界の宗教ドラマ 』では、最古の一神教として、古代エジブトの王アクエンアテンを紹介しています。

彼は旧来のアメン神を主神とする多神教を否定し、アテン神のみを唯一神とする革命を起こします。木村氏は、アクエンアテンの起こした一神教と、旧約聖書に出てくる「出エジプト」に何らかの関わりがあると推測をしています。

私は宗教学者ではないので、はっきりした断定はできないのですが、旧約聖書はユダヤ教の聖典ですから、一神教という共通項はあるでしょう。

一神教の特徴

一神教は個人の内面に深く入り込んでくるようです。下記にユダヤ教とキリスト教の特徴をまとめてみました。

ユダヤ教での神との「契約」

キリスト教の母体となったユダヤ教では、神との契約を重視します。神と上下関係の契約を結び、ヤーウェ以外の神を信仰しません。代わりに、神はユダヤ人の安全と繁栄を保障します。契約の内容は律法(law)になり、聖書は契約を記す書物となります。

"Oh my god!" と言っちゃダメ!? ― 神の概念について 』の記事に登場するバスドライバーのユダヤ人おばさんは、自分の安全と繁栄をいかに神によって保障されているのかについて、話しておりました。

信仰があれば誰でものキリスト教

ユダヤ教から派生したキリスト教では、律法がユダヤ教ほど厳格に守られておりません。キリストは安息日に病人を治したりしましたし、くわえてキリストは、律法を破った人間も信仰があれば救われると説きました。

選民思想を持つユダヤ人からすれば受け入れがたい話でして、これらの違いが旧約聖書をベースとしながらも、キリスト教として異なる宗教に分かれていった理由となっています。

<参考文献>
常識として知っておきたい世界の三大宗教

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心のなかに入り込む一神教

こうやって考えてみると、一神教は信仰と引き換えに、神と個人の関係を厳格に求めてくるようです。

前述の本村凌二氏は、多神教は人間に正しい振る舞いを求めるとしています。対し、一神教はモーゼの十戒にあるように、「あなたには、わたしをおいてほかに神があってはならない」と心のありようを求めてきます。ゆえに、形だけの礼拝にならないよう、偶像を作ってはならず(ユダヤ教とイスラムでは偶像崇拝が禁止)、心からの忠誠を求められます。

一神教社会での「責任」対する感覚

一神教徒の多い社会の中で、神と個人の関係を重視する西洋人は、日本人と比べて自我が意識の中心にあるのかもしれません。

母性社会日本の病理 』において臨床心理学者の河合隼雄氏は、西洋人は意識の中心に自我が存在し、それによって統合性をもち、それが自己との繋がりを作っていると述べています。対し、日本人がいかに対人関係を明文化する「契約」の概念を持たず、「察しの良い」関係を身上とすることを指摘した上で、河合氏はこう書いています。

外国の場合、能力のないものは場による救いがないだけに、厳しい現実に直面しなければいけない。会社に就職しても契約通りの働きがないときは、契約が解除されることになる。このような個人に対する責任の厳しさは幼児のときから訓練されており、筆者は、スイス留学中に、小学一年生が成績次第によって幼稚園に落第するのを知り、驚いたことがある。

河合 隼雄著『母性社会日本の病理』245ページ

実際に「責任」を取っていった人々

私は留学した際、数多くの学生が退学するのを見てきました。ある時、International Student Officeに出向いた際、待合席で隣に座っていたアジア系留学生が、職員との会話から退学手続きを取っているのを知りました。担当した職員はすべての手続が完了していることを確認すると「Good luck in your country」と握手するだけで、非常にあっさりとしており、そのケレン味のなさに私は驚きました。

卒業後、アメリカで社会人になり、会社では数多くの正社員が解雇されるのを見てきました。日本で働いた場合、正社員が場(会社)から放棄されることはまずありえないのですが、ここでは場という概念が希薄なことは間違いないでしょう。

私の会社は日系会社ですから、これでも場の概念を引きずっているはずで、場の保護力は健在なはずです。それでも結構な数の解雇された従業員が思い浮かびます。

「契約」と「責任」に対する感覚の違い

日本では何か問題が起きた際、会議でも責任者として個人の名前を出すことはご法度ですし、長時間会議をし、「皆」が努力したことになる場合が多いのです。しかし、アメリカでは本当に会議で個人名が出ます。

アメリカに在住をした場合、一神教への信仰を問わず、この国では「契約」と「責任」に対する感覚が違うことは、頭の片隅に入れて置いたほうが良いでしょう。

借家契約の契約の際、ゴチャゴチャと書いてある契約を読まずにサインをし、衛生放送のパラボナアンテナを置いたら、契約違反といわれた。 会社にトラブルを起こした従業員が辞める数日前、わざと取引先と不利な契約を結んでから辞めた。 日本の大学と比べて、成績評価が厳格で、本当に退学になった。 従業員を雇ったはいいが、トラブルを起こすので首にしたいが、雇用の際、終身雇用はしない旨の契約書にサインしてもらっていないため、首にすると訴訟になりそう…

こういった話は、日本人の持つ「契約」や「責任」に対する感覚がアメリカ人と違い、個人レベルで訴求されないことに起因しています。

私はよく同僚から、「会社の内紛とか、人間関係に巻き込まれないでいるの、上手いよね」と褒め言葉なのか、皮肉なのかよく分からない言葉をいただくのですが、これは「日本人と西洋人の倫理観を明確に把握しているがゆえに、東西の間で人間関係を泳ぐのが上手いから」と、自分では思っております。

最後に

こういった感覚の違いは、海外での生活が長くなるにつれ、違和感として降り積もり、不満へと発展していく可能性がございます。

実際、最初は快適な住居環境にくわえ、有休も取れ、贈与や年齢の上下に縛られないラクな人間関係を好きになりますが、長い間住むにつれ、徐々に感覚の違いが鼻についてきます。

一神教社会の特徴を把握していただき、皆様が後悔されることのない海外生活を送られることを希望しております。

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