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Michael D Beckwith

アメリカで経験した人生初の起訴 − 私が突然殴られた日のこと

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実は私はアメリカで留学中、殴られたことがございます。相手はアメリカ人の学生でして、何かしら精神的な問題を抱えていたようです。その際、法的手続きを取りましたので、その体験を基に書いていきたいと思います。

居心地の良い学生寮が一変

当時、大学院二年目を迎え、アメリカでの学生生活が板についてきたころのことでした。私は大学院生しか住めない寮に住んでおりました。この寮は最も住み心地の良かった寮だったと記憶しています。なぜならルームメイトがいない一人部屋で、なおかつ各フロアに共同のキッチンがあり、適度にプライバシーと友達との交流があったからです。

そんなハッピーな留学生活をぶち壊すようなことが突然起きました。

私が共同キッチンで夕食をつくり、まさに食べようとしていた時です。口に肉片を入れた途端、耳に「ドタドタ」という足音が聞こえ、振り向きざま、目に火花が散りました。何事かとおもいきや、私の目の前に、激怒したおっさんの顔が・・・ 目は凝血し、禿頭からは湯気がたたんばかりに昂奮しております。

私のメガネは殴られた際に吹き飛んだので、良くは見えなかったのですが、生命の危険は察知しました。すぐに、椅子から転げ落ち、近くの日本人の親友の部屋のドアを叩きました。

幸いなことにその友人は部屋にいて、中に入れてくれました。「どうしたの?・・・あ、その顔!」友人がティッシュを差し出してきて気づいたのですが、私は鼻血を出しているのでした。

殴ったのは同じ寮の学生

友人に事情を説明し理解を得ると、ひとつの問題に気づきました。誰がドアを開けて廊下に出るかです。

私の記憶では、加害者のおっさんは殴った際、自分のこめかみに人差し指を突きつけていたので、ピストルの意味かもしれないのです。一計を案じ、内線で他の部屋の友人に、廊下の状況を調べてもらうと、誰もいないとのこと。

廊下に出て皆でそのおっさんの部屋に行こうかと話したのですが、困ったことに、そのおっさん自身、変わり者で誰も口を利いたことがないのです。また、非常に怯えたような顔をしていたかと思えば、昂奮しているような素振りを見せていたこともあり、気味悪がって誰も彼の部屋のドアをノックしたがりません。困った私は、別棟にいるアメリカ人の親友を呼び寄せました。

アメリカ人の親友はすぐに来てくれ、事情を聞くと「あー!あいつ、見たことある。でも、なんか、違うんだよなあ」といっており、皆も同意見でした。

警察を呼び事情聴取

結局、警察を呼ぶことになり、程なく男女一人ずつの警官が寮にやってきました。アメリカの大きな大学にはUniversity Policeという大学付属の警察があります。警官は私達から事情を聞くと、私の鼻に血が付いていることを確認。男性の警官が腰の銃に手を掛けながら、例のおっさんのドアを叩きました。

おっさんが廊下に出てきて、いくつか問答をしているようですが、よくは聞こえません。しばらくして男性の警官が私にやってきて、話が噛み合わなかったとのこと。「何か精神的な問題があるのかもしれない」と頭を指します。

また当人によると、こめかみに人差し指をつきつけたのは、私が当人の名前を呼んでいただからそうで、名前すら知らない私は驚きました。結局、おっさんは、警官に連行されて行きました。

警察から届いた”Prosecute”の書状

それから数日後、警察から書状が届きました。とどのつまり、”Prosecute”するかどうかを尋ねてきています。当時の私はProsecuteという単語を知らず、辞書で調べると、「起訴する」という意味のようです。

困ったことに、日本語でも「起訴」という言葉の意味がよく分かりません。なぜなら、日本でも法的に他人を起訴したことがないので、どういったことが自分の身に降りかかるのか分からなかったのです。弁護士費用が必要になり、金銭的に多大な負担がかかるのは御免被りたいですし、起訴したことで返って困った立場に追い込まれるのも困ります。

考えた挙句、懇意にしている教授に相談してみました。尋ねてみると、起訴することによって法的に自分の身の安全を守ることができるとのこと。相手が精神病を患わっているのいるのならば、法的に施設に送ることができるらしく、私に金銭的な負担はかからないことを教えてくれました。

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人生で初めての起訴

私は起訴することに決め、書状にサインをし返信すると、法廷にまで来いとのこと。地元に簡易裁判所があり、私は定められた日時に法廷に向かいました。法廷に向かうと、幾人もの人が採決を待っています。群衆の中を見ると、例の私を殴ったおっさんも家族らしき人たちと一緒におりました。

順番を待っていて気づいたのですが、他の待っている人たちは飲酒運転、ドラッグでの逮捕など軽微な罪を犯して、裁判所から今後の処遇を聞くみたいです。裁判官の採決を聞いていると、中にはドラッグの販売で数度逮捕されている高校生などもおり、私は震え上がりました。

私の順番が呼ばれ、前に出ると、例のおっさんも横に並びます。一応、警備員がおりますので、私は安全とはいえ、裁判官は私が横に並びたがっていないことを悟ったのでしょう、おっさんにある程度の距離を保つよう伝え、採決を聞きました。

精神病院に通院歴があった

その際、初めて知ったのですが、おっさんは精神病院に通院歴があり、大学院で心理学を専攻していたとのこと。おそらく自分の精神的な問題の究明に興味をもったのでしょうが、警察沙汰を起こしたことにより、大学院は退学。壊した私のメガネを弁償するため、毎月定期的にお金を送ってくることになりました。また今後数年間、接近禁止命令が出され、それに違反した場合は逮捕されることも決まりました。

裁判官に礼を伝え、裁判所を後にしようとしたのですが、問題は、通路の脇でおっさんが頭を抱えていることです。うかつに脇を通れば、再度殴られる可能性もなくはありません。裁判官の職員に他に出口はないかと尋ねたのですが、出口は通路の先にあるのみで、私が脇を通る選択肢以外ないようです。その女性職員は非常に優しく、私がおっさんを横切る際、一緒に歩いてくれ、私の盾になってくれました。

採決後の私の心境

横切る際、私はそのおっさんと一緒にいる老婦人に気づきました。年齢の背格好、雰囲気からいって、おっさんの母親に違いありません。頭を抱えるおっさんを気遣う老母の悲しそうな姿が、自分のした起訴が良かったことなのか、初めて考えるきっかけになりました。

起訴していなかったら私は法的に自分の身を守れず泣き寝入りですが、起訴したことによって、おっさんの未来は元に戻りました。きっと、老母は自分の息子が自立して生活していくことを望んでいたに違いありません。なんだかとんでもないことをしてしまったような気分になったのも事実です。

寮に戻り、周囲の友人に裁判所での話をすると、それまでおっさんをはやし立てていた友人たちも、急に静かになりました。相手が病気となると責めるわけにはいきませんし、人生の難しさの一端を見る思いです。

その時、私の友人があのおっさんが先日、荷物を引き取りに寮に来ていたことを思い出しました。そこで皆でおっさんの部屋を覗いてみることにしました。部屋に入ってみると、荷物を引き払った部屋はガランとして広々としていましたが、びっくりしたのは、一面、煤けた壁です。本棚や家具が置いてあったであろう箇所は元の白色なのですが、ずっとタバコを部屋の中で吸い続けていたのでしょう、壁一面はすすけて、一面茶色くなっているのでした。

最後に

以上がことの顛末です。結局、これ限りでこの男性から被害を受けることはありませんでした。留学生活でトラブルがないことに越したことはありませんが、トラブルに遭った際、法的な手続きをして自分の身を守る手段を学びました。皆様の参考になれば、幸いです。

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