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伝説のレストランで「地域と食と生き方」を考えるインターンーートビタテ!留学経験者インタビュー Vol.10 後編

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農業を学び、調査研究するだけでは満足せず、ついにアメリカ伝説のレストランに足を踏み入れたトビタテ生、細越さん。インタビュー後編の今回は、彼のインターン先となった地域コミュニティーの中心を担う有名なレストランでの経験をご紹介。そこでの出会いが細越さんの人生を大きく変えていきます。

前編はこちら
”農業” をテーマに、4ヶ国を奔走した学生のモットーとはーートビタテ!留学経験者インタビュー 前編

今回インタビューしたトビタテ生

細越雄太さん

東京農業大学出身の細越さん。大学卒業を目の前にして、大学生活の集大成を実現するためトビタテ!留学JAPAN(※)日本代表1期生として留学したトビタテ生です。ベトナム、タンザニア、フランス、アメリカで約7ヶ月間の留学を通して、有機農業をテーマに調査・研究・インターンシップを行いました。

※トビタテ!留学JAPAN= トビタテ!留学JAPAN 日本代表プログラム 。官民協働の留学支援制度で、返済不要の奨学金が給付される。

留学の締めくくりとなったインターンシップですが、実は応募する時点では未定だったそうです。細越さんが留学中、あるレストランの名前を思い出し、行動を起こし、何かを得るまで、そしてそれを将来につなげていく姿に迫ります。

タンザニアの畑で思い出した伝説のレストラン

(↑タンザニア留学中の街の風景)

ーー アメリカのインターン先は、どうやって決めたのですか?

インターンは、カリフォルニア州バークレーにあるレストラン「 シェ・パニース 」に行きました。

シェ・パニースには、以前アメリカ農業研修中に一度お客として行ったことがありました。そこで一口食べたとき「これは本当に本物だ!」と思ったんです。

ここまで衝撃を受けたレストランは人生で初めてだったので、すぐにウェイターさんを呼んで、ここで働くにはどうすればいいですかって伝えました。すると、シェフのアドレスを渡してくれて、すぐに連絡を取りました。

そしたらすぐ返事が来て、その内容がなんと「明日面接しましょう」ということだったのですが、その日はビザの関係で帰国しないといけない日だったので、仕方なく「また次の機会があったら連絡します」と返事していたのを、たまたまタンザニアで思い出したのが始まりです。

ーー そこからどんな連絡を送ったんですか?

今まで自分がやってきたこと、今やっていることを伝えて、なぜシェ・パニースでインターンをしたいのか、何を学びたいのかをメールで伝えました。そしたら予想外に「いいよ!」って言ってもらえました。

シェ・パニースはミシュラン2つ星を獲得したこともある人気レストランで、さらに自分はシェフでもなんでもなく、ただ農業を学んでいる学生なので、そんな自分を本当に働かせてくれるのか何度も確認してしまいましたね。「いいの?」「いいよ!」「本当にいいんですか?」って。

当時ちょうどクリスマスの時期だったので、最後に「じゃあ行きます!最高のクリスマスプレゼントをありがとう!」って返事を送りました(笑)。

ーー シェ・パニースは、どんなレストランなんですか?

シェ・パニースはオーガニックレストランです。世界的にも評価が非常に高く、2002年から2008年には世界のトップレストラン50に選ばれており、2007年にアリス・ウォータースさんは過去50年で最もアメリカ料理に影響を与えたと讃えられています。

オーナーであるアリス・ウォータースさんは、地元産・オーガニックの旬な食材を使い、『その日に仕入れた素材の持つ美味しさを生かし、その日のメニューを決める』という、一見当たり前のようで、実に難しいことを今から45年以上も前にやってのけた方です。彼女は、彼女と考えを同じくする地元の優良農家と仕入れネットワークを構築し、ローカル・オーガニックで且つサステイナブルな食材を使うことを強く提唱しています。

ーー 先ほど、初めて食べた時に「本物だ!」と感激したとお聞きしましたが、どのような衝撃だったのですか?

そのとき食べたのは、ガーデンサラダでしたが、そんな「何の変哲もないサラダ」に衝撃を受けたんです。

あと、メールにも書いたのですが、ソーシャル・レストランというスタイルにも感銘を受けました。シェ・パニースは街と一体となっているレストランで、それがバークレーのハブとなっているんです。

地域の人たちが食べに来るのはもちろん、来店した地域の人たちが農場の見学を希望したら、実際に農場に連れて行ってあげる橋渡しもします。あと、そのレストランの近所にある荒れた学校の生徒に、農業と食を伝える活動をシェ・パニースは行ったのですが、それがとても効果があったみたいです。

1つの例ですが、レタスを使って太陽のエネルギーがいかに体の役に立っているか、光合成の話を交えて伝える授業をしたそうです。授業後、そのレタスをサラダにして食べたそうなんですが、こういった自然界の循環を伝えることで生徒は感動したそうなんです。

念願のインターン。だからこそ「もっと働かせて下さい」

(↑念願のアリス・ウォータースさんとの一枚。)

ーー 細越さんがシェ・パニースに注目したのも頷けます。シェ・パニースではどんなことをしていたのですか?

具体的には、シェフのお手伝いがメインになりました。シェ・パニースはカフェ、ディナー、ペイストリー(デザート)の3つのセクションに分かれていました。ディナーはシェ・パニースの中でもトップのシェフたちが、カフェには基本的にディナーシェフを目指しているシェフたちが働いています。

ーー 全部のセクションで働いたんですか?

自分から、全部のセクションで働かせてもらえるように交渉しました。初日にインターンのシフトを出されたとき、1.5ヶ月もいるのに7日分しかシフトに入ってなくて、しかもディナーの部門だけの仕事でした。

その上、働く時間は3時〜9時で、それが7日間だけ。これではなんでここに来たのか分からないと思い「もっと働かせて下さい」と伝えました。

結果、各部門長に話をして、空いている時間、週6日、朝7時〜夜10時までカフェ、ペイストリー、ディナーの3部門を仕事を渡り歩いて働きました。とはいっても、料理に関して専門的に学んでいたわけではないので、どうやるのかということを説明を聞いた後に実際に見せてもらい、その通りするやることを心掛けました。

ーー 大変だったことはなんですか?

3つの部門を渡り歩いていたので、シフトもあるようで無いというか…(笑)。時間通りに終わらないこともあるじゃないですか?そのときはダブルブッキングしちゃったりしてたこともあって、怒られてしまいました。

ーー そうやって、自分でシェ・パニースの中に居場所を確立していくのは難しかったのではないですか?

怒られたこともありましたけど、周りのスタッフにとって、僕は無休で無給だし頑張って働くし、結構感謝されて。最終的には、良い関係性築いて帰ってこられたかなって思います。

ーー インターンを通してやりたかったことは、できましたか?

シェ・パニースに行きたかった理由は、食・農業と教育の関係性に興味があったからです。それを体現されている方がアリス・ウォータースさんでお会いしたかったんですが、講演活動などで忙しい方だったのでなかなか会うことが叶わなくて。

でもやっと、偶然お店に帰ってこられたタイミングで彼女に会うことができました。「とても尊敬しているのでお話したい」って伝えたらお時間を下さいました。アリス・ウォータースさんの言葉で印象的だったのは「結局、行動に移すことが大切。動かなきゃ始まらないでしょ。」という言葉でした。

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心に響いたのは、親しみのある人たちの言葉

(↑シェ・パニースのシェフたちと。)

ーー 1.5ヶ月間のインターンの中で1番の収穫は、アリスさんとの出会いですか?

実はそれだけではなくて、シェ・パニースで働いている方たちからもたくさんのことを学びました。彼らはみんな同じ想いを持って働いていて、人として尊敬できる人ばかりでした。

アリスさんとのお話だけでなく、むしろそれ以上に、毎日色んな話をしていたシェフの方たちからもらった言葉のほうが、感銘を受けるところがありましたね。やっぱり親しみやすくて。

ーー どんな言葉が印象的でしたか?

シェ・パニースには同い年のスタッフもたくさんいたんですが、その人たちの出身校をお聞きしたら、 UCバークレーとか、ワシントン大学とか、なんでここで働いているのか分からないくらい学歴の高い人たちが多くいました。しかも専攻も、地政学とか、食とは関係なさそうなものばかりで。

そこで僕が「なんで?」と、聞くと「ここのレストランでやっていることに自分は今とても興味があるから、今はこれがいいんだ」って。彼らは自分のやりたいことにフォーカスして、自由に生きているなって思ったんです。研究を続けていけるようなポストにいながらも、レストランという選択肢を選んだ彼らに驚きました。

あと、デザートのシェフの方に言われた言葉も心に残っています。その方はいつも心に余裕があって、怒らないんです。理由を尋ねてみると「怒るよりも、解決策を考えたほうがいいじゃないか?」って言葉が返ってきました。

こんな風に、何気なく会話した返答や考え方から尊敬できる人たちにたくさん出会えました。何度も言いますが、料理もプロではない、農業を学んでる日本人が、なんかいるけど、頑張ってるぞ、っていう自分に対して、対等に接してくれて、声をかけてくれたのがすごい嬉しくて、言葉以上に感じるものがありました。

ーー そんな人たちが集まっているシェ・パニースってすごいですね…!

そうですね。シェ・パニースで働くシェフの人たちは、いかに素材の良さを引き出すかを大切にしていて、決して最先端の技術を使うような料理ではないんです。どちらかというと哲学的な面に共感して、ここで働きたいって思う人が多い印象でした。

会社をやめる、という決断ができた理由

ーー インターンを通して、自分自身変わったなって思ったことはありますか?

実は、自分が最初就職した会社は今までお話した自分の軸と全く関係のない、金融コンサルタントの企業だったんです。トビタテ留学中は、すでに就活を終えていました。

学生生活の中で出会うような、いわゆる意識の高い学生たちは、安定していてお給料も高い、でも自分が大学で軸を持って活動していたこととは関係ない企業に行く人たちも多いのではないでしょうか。当時は自分もそんな学生でした。

農業とは全く違うと思いながらも、東証一部上場のような企業に憧れもあったんです。でもシェ・パニースの方と話して、自分が何をやりたいかが重要で、そこに忠実に生きている彼らの姿を見て、自分の中に引っ掛かりを感じました。

結果として、最初の企業は1年でやめることになりました。今いる会社よりも、自分の今までの知見経験が活かせるような会社に就職しようって思ったからです。

ーー シェ・パニースでの経験は、細越さんの人生を大きく変えたようですね。ではこれから細越さんがやっていきたいことはなんですか?

自分がやりたいことは「農業を義務教育に取り入れたい」というのがひとつです。でもそれらやっていくには、既存の企業では厳しいものがあるので「自分でやる」ことを踏まえ、今はいろいろ動いています。

また、先日のトビタテ生の報告会で、東北で農業教育を行っている団体の方と繋がることができ、今後一緒にやっていきましょうっていう話も進んでいます。その中で、自分のやりたいことのロールモデルとしてコンテンツ化していきたいです。まずはそんなふうに具現化していくフェーズになると考えています。

ーー もう動き出していらっしゃるんですね。そういった縁が、トビタテのメリットでしょうか?

メリット・デメリットというよりも、可能性が広がるっていう点が1番大きいと思います。

実は、同じように食をテーマに留学していたトビタテ生とともに「トビタテキッチン」ということで、トビタテの事務局や留学中にお世話になった仲間に「感謝を伝える」をテーマ設定をして約50人に料理を振舞うということもしました。このようになにかを体現できる場、また仲間との繋がりというのは大きな財産ですね。

緊張と喜びは比例する

ーー 留学を終えて、本来トビタテ応募時に提出した留学計画書と、実際の留学経験を比較したときの計画達成度は100点満点中、何点ですか?また、自身の満足度は何点ですか?

計画達成度は50点です。個人的には非常に満足する留学でしたが「何かを成す」という観点から見ると、成果として何かを残せたわけではなかったので。

でも満足度は100点です。留学中に出会った人、文化、経験など、どれを取っても留学して良かったと思えます。そして、トビタテ!というコミュニティに出会えたことも踏まえて、大満足の留学となりました。

ーー では最後に、これから留学したい人にメッセージをお願いします!

インターンでも、トビタテ!でもそうですが、何かに挑戦するときって、すごく緊張すると思います。でもその緊張の度合は、結果に比例します。

例えば告白の時だって、すごい緊張するし、成功するかしないかは分かんないけど、成功した時に得られるものって莫大なものがあると思うんです。緊張を乗り越えたあとにある莫大な喜びと、緊張の度合いって、自分は比例するって思っています。

トビタテ!に応募しようって思った場合、この留学計画でいいのかな?と、不安になったり、合格できるかどうか緊張するタイミングも多いと思います。でもやってみて、その先に得られるものは、不安や緊張と比例します。

上手くいくか分からないけど、上手くいったときに得られるものは、その段階で感じている緊張と比例する。だからその先に待っている喜びは莫大に大きい。これが持論です。だからみなさんにも、緊張や不安に臆せず挑戦して欲しいと思います。

インタビュー後編を振り返って

細越さんのお話を聞いていると、その目には当時の生き生きとした感情が今も鮮明に残っているように感じました。始めてシェ・パニースでサラダを口にしたときの感動や、職場での素敵な出会いと言葉の数々。インターンを通して得られた経験が、今も細越さんの心の中に息づいていて、それが現在の細越さんのエネルギーになっているのだなと思います。

「自分のやりたいことをしよう!」留学を通して考え方や生き方が変わったと語る細越さん。「緊張は喜びに比例する」という言葉は、細越さんの人生に対する希望を指し示しているように感じます。臆することなく、やりたいことに挑戦し続けるトビタテ生の真の姿が証明されるインタビューとなりました。

インタビュアー

佐藤 果歩(さとう かほ)/早稲田大学3年/アブログインターン生

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