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ユダヤ人の友人との一晩
「ユダヤ人」と呼ばれる種類の人間がいることは日本でもよく知られております。アメリカに住んでいると、仲良くなった友人に「私はユダヤ系よ」という人が出てきます。ナチスドイツのユダヤ人迫害はよく知られるところですが、その根本に潜む原因は何でしょうか。私は何度も宗教に関して書いてきていますが、キリスト教はユダヤ教から派生していますから、キリスト教徒の多い西洋社会でユダヤ人は尊敬されてもいいはずです。それがなぜ、迫害の対象になるのか。私はユダヤ系の人に会うにつれ、沸々と疑問が湧いてきました。
ラーメン屋のユダヤ人
先日、私はアメリカ人の友人に誘われ、ラーメン屋に行ってまいりました。現在ではミシガン州でも徐々にラーメンブームが押し寄せ、各地でラーメンを謳う日本食料理店がオープンし始めているのです。私の友人はユダヤ系アメリカ人の弁護士。ついこの冬、北海道のスキーツアーに参加し、初めての日本を満喫してきたばかりです。
彼女いわく、「札幌のカニラーメンが美味しかった」とのこと。アメリカで日本と同じレベルのラーメンは望むべくもありませんが、ラーメンもどきを提供する自称ラーメン店は各地に存在します。私はGoogleとYelpを駆使し手頃なラーメン店を探しだし、車で40分ほどドライブした街に彼女を連れ出しました。
ラーメン店で彼女は日本の写真を私に見せながら、日本食をたくさん食べてきたことを説明します。北海鍋、寿司、ラーメン、蕎麦、釜飯。どれも私の大好物ですが、ここで引っかかることがありました。日本には「Kosher」はないはずです。
「Kosher」とは、ユダヤ教での食の規定を指すものですが、水中に住むものでは、ヒレとウロコがあるものは食べても構わない(つまり、タコとかイカはダメ)とか、肉と乳を分けて調理せよなど結構複雑なのです。私は彼女が日本に行く前から、「日本ではイカもタコも食べるぞ」と脅していたのですが、普段から私と寿司を食べ歩く彼女は意に介しませんでした。
ユダヤ教の「超正統派」と「世俗派」
実はユダヤ人でも戒律を順守する「超正統派」と戒律を気にしない「世俗派」がいるそうです。私の友人の彼女は世俗派。彼女は寿司も食べますし、ユダヤ教では禁忌とされる豚のチャーシューも食べておりました。
また彼女のルックスも、アメリカ人のそれと変わりがありません。彼女は濃い茶髪の巻き毛ですが、べつに普通のアメリカ人でもクルクル天然パーマの人は多いですから、珍しくはありません。大きな瞳にややトーンが暗い肌ですが、いわゆる「白人」にカテゴリーされるような外見です。服装もトレーナーにジーンズ、アメリカ人によくあるファッションです。
著名な哲学者のサルトルも、ユダヤ人とは何かと定義することに苦労しています。ユダヤ人といっても外見にばらつきが多いですし、各人によってユダヤ教への信仰度もまちまちです。心理的、肉体的、社会的、宗教的、個人的、遺伝的などの要素が入り組んだ何かがユダヤ人というイメージになっていますが、それが何なのか。彼は結局、ユダヤ人を以下のように定義しています。
-
「ユダヤ人とは、他の人々が、ユダヤ人と考えている人間である」
- 「ユダヤ人」サルトル著
結局、他者があの人は「ユダヤ人だ」と思うと、その人はユダヤ人となるようなのです。実際、彼女は私に「I am Jewlish」と私に伝えて、私は彼女がユダヤ系だと初めて認識しました。
ユダヤ人への偏見の背景
それでは、なぜ西洋社会の中で、偏見の的になり続けているのか。大体ユダヤ人という定義が曖昧だったら、迫害しようにも目標がはっきりしないはずです。ときどき、こういったセンシティブな話題を本人に尋ねる人がおりますが、私はお勧めしません。私自身、アメリカ人から、「ねー、ねー、なんで日本人は韓国人と中国人がキライなの?」と、無神経な質問をされ閉口した経験があるからです。よって、私はこっそり本を読んで色々調べてみました。
上田和夫著「ユダヤ人」では、ユダヤ人が嫌われる理由を以下のように挙げています。
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1.「選民」への羨望と嫉妬
2.ユダヤ人の世界支配
3.社会のエリート
4.人種理論に基づくもの
- 「ユダヤ人」上田和夫著
1番に関しては、ご存知、ユダヤ教ではユダヤ人が「選民」扱いだということです。キリスト教もユダヤ教と同じ神を信仰しているので、ユダヤ人「だけ」というのはやはり妬みの対象になるのではないでしょうか。また、キリストを十字架に貼り付けたとされるのはユダヤ人です。
2番目の理由に、中世において金融業をするしかなかったユダヤ人が近代に大資本家になる人物が現れたことがあるでしょう。
3番目の理由として、社会に多数の著名人を排出してきたことがあるかもしれません。ちょっと、名前を挙げても、マルクス、フロイト、アインシュタインなど各分野の有名人著名人でユダヤ人は実に数多いです。
最後の理由は、ただ単に「ユダヤ人」だから悪いという人種論的な考えです。
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本は読んだものの
実は、私は上記の理由を本で読んでも理解しているわけではありません。西洋社会で生まれ育っていないので、いまいち肌感覚でこういった偏見が存在することを理解できないのです。また最近、Youtubeを観ていて仰天しました。どうもキリストを磔にしたのはユダヤ人ではなかったという新説がでてきたようです。もしこの新説が支持されるようになった場合、二千年間、ユダヤ人は勘違いされたまま、迫害されていたことになります。
私は友人と食事を終えた後、好奇心を抑えきれず、言葉を選びながら、私の本で読んだ知識を披露しました。彼女は彼女の祖母の話をしてくれました。
彼女の話
彼女の祖母の時代、まだアメリカにもユダヤ人への偏見が残っており、祖母の姓である「Goldberg」という名前が面接の際に指摘され、採用されなかったとのこと。その祖母は、「Silverberg」という苗字のユダヤ人男性と結婚したそうで、本の知識を裏付けするような話にびっくりしました。
ただし、彼女自身は生まれてから、ユダヤ人としての偏見は感じたことがないとのとこと、現在の彼女は両親の結婚と離婚によって全くユダヤ人的でない苗字になっていることもあるかもしれません。
最後に
彼女と食事をして、つくづく感じたのは、一筋縄に社会は把握できないなということです。本を読んだとしてもその知識を現実に適用できるとは限りません。今回複数のユダヤ人関連の書籍を読みましたが、実際の友人に尋ねたところ、必ずしもその本のとおりには現実は機能していないようです。日本にいたら本を丸呑みしてしまう可能性もありましたが、アメリカでの生活をすることによって少しは地に足のついた知識を得られて、充実した一晩でした。